【結論】プロの機材選びは「信頼性」と「制作スタイル」が鍵
「憧れのイラストレーターさんと同じ機材を使えば、もっと上手く描けるようになるかも…?」
デジタルでのお絵描きを始めようと思った時、多くの人が一度はそう考えますよね。結論から言うと、プロの機材選びには「長年培われた信頼性」を重視する傾向と、「自身の制作スタイルに合わせた多様化」という2つの大きな流れがあります。
この記事では、第一線で活躍するプロたちの具体的な愛用品を紹介しながら、あなたが自分にとって最高の「相棒」を見つけるための確かな基準を解説していきます。
依然としてプロに選ばれるWacomの信頼性
多くのプロの制作環境を調べてみると、今なお圧倒的な存在感を放っているのが「Wacom(ワコム)」社の液晶タブレット(液タブ)・ペンタブレットです。
なぜWacomが選ばれるのか?
- 長年の実績と、業界標準(デファクトスタンダード)としての安心感
- 繊細なタッチを再現する、ペンの描き心地と高い筆圧検知レベル
- プロの現場や専門学校で広く導入されており、操作に慣れている人が多い
- 安定したドライバと充実したサポート体制
締め切りに追われるプロにとって、機材のトラブルは絶対に避けたいもの。「よくわからないけど、みんなが使っているから」「昔から使っていて慣れているから」という声も多く、長年かけて築き上げられた”信頼性”こそが、Wacomが選ばれ続ける最大の理由と言えるでしょう。
コスパと多様化で増える新たな選択肢
一方で、近年はWacom一強の時代から大きな変化が訪れています。
注目される新たな選択肢
HUIONやXP-Penといった海外メーカーが、プロの要求に応える性能を持ちながら価格を抑えた製品を次々と発表。さらに、Apple Pencilの登場により、iPadがイラスト制作のメイン機材として使われることも珍しくなくなりました。
これらの新しい選択肢は、特に以下のようなクリエイターに支持されています。
- コストを抑えつつ、本格的な環境を整えたい人
- 場所を選ばずに、どこでもアイデアを形にしたい人
- イラスト以外の用途にも使える、汎用性の高いデバイスを求める人
プロの中でも、制作スタイルや価値観に合わせて、Wacom以外の製品を積極的に選ぶ人が増えているのです。
この記事を読めば、あなたの「最適解」が見つかる
「結局、Wacomと他のメーカー、どっちがいいの?」
「自分にはどのくらいのスペックが必要なの?」
この記事では、こうした疑問に答えるため、有名イラストレーターや漫画家が「なぜその機材を選んだのか」という背景まで深掘りしていきます。
プロたちの選択基準を知ることで、あなたの予算や制作スタイル、将来の目標に合った機材、つまり「あなただけの最適解」がきっと見つかるはずです。さあ、一緒にプロの制作現場を覗いてみましょう。
なぜ?プロが本当に重視する機材選びの5つのポイント
カタログスペックの数字だけを眺めていても、最高の”相棒”は見つかりません。毎日、何時間もデバイスと共に作品を生み出すプロが、本当に重視している「生きた視点」を見ていきましょう。
1.描き心地と視差の少なさ
プロが最も重視するのが、紙とペンのようにストレスなく描ける「描き心地」です。
これはペンの追従速度、筆圧検知の繊細さ、そして「視差(パララックス)」の少なさで決まります。視差とは、液晶画面のガラスの厚みによって、ペン先と実際に線が描かれる位置に生じる微妙なズレのこと。このズレが少ないほど、狙った場所に直感的に線を引くことができ、作業への没入感が高まります。
ポイント
描き心地は非常に感覚的な部分です。近年の機種は視差が少ないものが多いですが、もし可能なら家電量販店のデモ機などで、実際に自分の手で描き心地を試してみることを強くお勧めします。
2.長時間の作業でも疲れない「サイズ」と「姿勢」
意外に見落としがちなのが、身体的な負担を軽減するための「サイズ」と「姿勢」です。
「大は小を兼ねる」と思われがちですが、一概にそうとは言えません。机の広さや、腕を大きく振って描くか、手首で繊細に描くかといった自分の作画スタイルによって最適なサイズは変わります。
大型モデル(22インチ以上)
- メリット:腕を大きく使って描ける、キャンバス全体を見渡しやすい。
- デメリット:机のスペースを圧迫する、視線の移動距離が長く疲れやすい。
中型・小型モデル(13~16インチ)
- メリット:省スペースで設置しやすい、視線移動が少なく疲れにくい。
- デメリット:ツールパレットなどを置くと作業領域が狭く感じることも。
また、健康的に創作を続けるためには、角度調整ができる専用スタンドは必須アイテム。自分に合わない角度で描き続けると、猫背になったり首や肩を痛めたりする原因になります。
3.信頼性とサポート体制
締め切りがあるプロの現場では「機材が突然動かなくなる」のが一番の恐怖です。そのため、多少価格が高くても、ドライバが安定していてトラブルが少ない「信頼性」が重視されます。
万が一の故障時に、メーカーが迅速な修理や代替機の貸し出しサービスを提供してくれるかといったサポート体制も、プロがメーカーを選ぶ上で重要な判断基準となっています。
4.PCやソフトとの連携・互換性
液タブやペンタブは、パソコンに接続して初めて使えるデバイスです。自分のPCのOS(Windows / Mac)やスペックで問題なく動作するか、購入前の確認は欠かせません。
特に、4Kなどの高解像度な液タブの性能を最大限に引き出すには、それなりのグラフィック性能を持ったPCが必要になります。また、CLIP STUDIO PAINTやPhotoshopといったメインで使うお絵描きソフトで、筆圧機能やショートカットキーが正常に動作するかもしっかり確認しておきましょう。
5.コストパフォーマンスと将来性
プロが考えるコストパフォーマンスとは、単に「価格が安い」ことではありません。「その投資に見合う価値が長期間得られるか」という視点です。
将来を見据えた選択を
「今の自分には十分でも、3年後に上達した自分も満足して使えるだろうか?」――。すぐに買い替えることになれば、結果的に高くついてしまいます。少し背伸びをしてでも、長く愛用できるモデルを選ぶことは、未来の自分への投資とも言えるでしょう。
【作家一覧】有名イラストレーター・漫画家の愛用機材を徹底リサーチ
お待たせしました。ここでは、第一線で活躍する有名イラストレーター・漫画家の方々が、実際にどのような機材を愛用しているのかを、公表されている情報に基づいて紹介します。憧れの作家がどんな環境で素晴らしい作品を生み出しているのか、見ていきましょう。
紹介する作家の選定基準について
本記事では、SNSでのフォロワー数、画集や漫画の出版実績、個展の開催歴などを参考に、幅広い層に知名度のある作家様を選定しています。情報は、ご本人のSNSやインタビュー記事など、公になっているものを参照しています。
キャラクターデザイン・ゲームイラスト系
多くのファンを魅了するキャラクターは、どのような環境から生まれるのでしょうか。
さいとう なおき先生(元ポケカ公認イラストレーター)の使用機材

引用元:GENSEKI マガジン
YouTubeチャンネル「さいとうなおき2」での丁寧な解説も大人気のイラストレーター。特にこれからデジタルイラストを始める人に向けて、機材選びのアドバイスを頻繁に行っています。
- タブレット: iPad Pro + Apple Pencil
- モニター: EIZO ColorEdgeシリーズ
- ソフトウェア: CLIP STUDIO PAINT (クリスタ), Procreate
傾向:手軽さと場所を選ばないスタイル
「これから始めるならiPadがおすすめ」と公言しており、導入の手軽さや、PCが無くても始められる点を重視しているようです。一方で、色の正確性を求められるプロの仕事用として、カラーマネジメントモニターのEIZOを導入している点も参考になります。
しぐれうい先生(VTuberとしても活躍)の使用機材
イラストレーターでありながら、自身もVTuberとして絶大な人気を誇るしぐれうい先生。配信でも使用されている、効率性を重視した作業環境が特徴です。また、姿勢にも言及されています。
- 液晶タブレット: Wacom Cintiq Pro 24
- 左手デバイス: Logicool G13 Advanced Gameboard
なんだかマジでこれを心配されてるんですけど、
しぐれは液タブに高さを出して顔の前まで持ってきて、黒板レベルで垂直に立ててるのでかなり姿勢いい方です!!!!
(体が痛い液タブユーザーさんは試してほしい) https://t.co/ISpAbpEZEs— しぐれうい🌂 (@ui_shig) March 22, 2025
察しが良い方がいるね、左手デバイスは廃盤のG13を使っています(壊れたらおわり)(ロジクールさん‼️涙)
他のツールもわたしが使っているものをモデルに作っていただきましたよ https://t.co/U9ZZaS8bgK— しぐれうい🌂 (@ui_shig) July 13, 2025
傾向:王道のWacomと左手デバイスによる効率化
腰を据えて作業する環境として、多くのプロが愛用するWacomの大型液タブを選択。さらに、ショートカットキーを大量に登録できる左手デバイスを駆使することで、作画のスピードと快適性を極限まで高めるスタイルです。
漫画家・コミックイラスト系
ストーリーテラーである漫画家たちは、どのような”ペン”で世界を描いているのでしょうか。
浅野 いにお先生(代表作:『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』)の使用機材
緻密な背景描写と、リアルな心理描写で人気の漫画家。デジタル作画の黎明期から先進的な技法を取り入れていることで知られています。
- ソフトウェア: Unreal Engine, Photoshop, CLIP STUDIO PAINT
傾向:3Dゲームエンジンを駆使した背景制作
特筆すべきは、ゲームエンジンである「Unreal Engine」で背景の3Dモデルを作成し、それを漫画に落とし込んでいる点です。キャラクターはクリスタで描き、Photoshopで仕上げるという、複数のソフトを連携させた高度な制作体制を構築。効率とクオリティを両立させています。
背景・コンセプトアート系
作品の世界観を決定づける背景アートのプロフェッショナルたちの機材を見てみましょう。
吉田 誠治先生(代表作:『ものがたりの家』)の使用機材
圧倒的な描き込みと光の表現で、見る人を物語の世界に引き込む背景イラストレーター。その美しい作品は、意外なほど手軽なデバイスからも生み出されています。
- タブレットPC: raytrektab 8インチモデル (ラフ・アイデアスケッチ用)
- ソフトウェア: CLIP STUDIO PAINT, Photoshop
傾向:メインPCと小型タブレットのハイブリッド制作
仕上げはデスクトップPCで行いつつ、ラフスケッチやアイデア出しの多くを8インチの小型タブレットPC「raytrektab」で行っていると語っています。どこにでも持ち運べる小型デバイスを活用することで、インスピレーションを逃さず、制作時間を最大限に確保するスタイルです。
Wacomだけじゃない!プロも選ぶ高コスパ液タブ・ペンタブメーカー
ご紹介した作家さんたちの機材を見て、プロの選択が実に多様であることに驚いた方も多いのではないでしょうか。定番のWacomを選ぶ方がいる一方で、iPadや小型タブレットPCを自身の制作スタイルに合わせて柔軟に活用する方もいます。このように、もはや「プロならWacom一択」という時代ではありません。
ここでは、そうした多様な選択を支える、Wacom以外の有力なメーカー(ブランド)を3つご紹介します。「自分に合った選択肢をもっと知りたい」という方は、ぜひ参考にしてください。
HUION(フイオン):価格と性能のバランスで人気
近年、プロ・アマ問わず急速にシェアを伸ばしているのが中国メーカーのHUIONです。特に評価が高いのが、価格と性能の驚異的なバランスです。
- 魅力的な価格設定:同等サイズのWacom製品と比較して、半額近くの価格帯のモデルも珍しくありません。
- 妥協のない描画性能:フルラミネーション加工による視差の低減や、sRGBカバー率120%を超える広色域モデルなど、プロの要求に応えるスペックを備えています。
- 豊富なラインナップ:入門者向けの小型モデルから、4K解像度に対応した24インチの大型プロモデルまで、幅広いニーズに対応しています。
どんな人におすすめ?
「Wacomのプロモデルに憧れるけど、予算的に厳しい…」という方にとって、HUIONは最も有力な選択肢となるでしょう。かつてはドライバの安定性に懸念を持つ声もありましたが、現在では大幅に改善されており、サポート体制も充実してきています。
XP-Pen(エックスピーペン):豊富なラインナップと手軽さ
HUIONと並んで人気を集めているのが、同じく中国メーカーのXP-Penです。XP-Penの強みは、圧倒的な製品ラインナップと、初心者が手に取りやすい手軽さにあります。
- 幅広い価格帯:数千円から購入できるペンタブレット(板タブ)から、高性能な液晶タブレットまで、予算に応じて最適な一台を見つけやすいのが特徴です。
- ユニークな製品群:物理的なホイールや多数のショートカットキーを搭載したモデルが多く、デジタル作画の効率化をサポートしてくれます。
- 付属品の充実:モデルによっては、スタンドや替え芯、手袋などが標準で付属しており、購入後すぐに快適な環境で描き始められる配慮がされています。
どんな人におすすめ?
「とにかくデジタルイラストを始めてみたい」という初心者の方から、「自分の作業スタイルに合う、ちょっと変わった機能の液タブが欲しい」という中級者以上の方まで、幅広い層におすすめできるメーカーです。
iPad Pro:手軽さと多機能性で新たなスタンダードに
もはや「液タブメーカー」の枠には収まりきらない存在ですが、プロのイラスト制作現場で急速に普及しているのがAppleのiPad Proです。
- 最高の携帯性:PCが不要で、本体だけでどこでも描ける手軽さは最大の魅力。ラフやアイデアスケッチのツールとして導入するプロも多数います。
- 直感的で高性能なApple Pencil:遅延の少なさや傾き検知の精度は、まさに紙に描くような感覚。最新のチップ搭載モデルではさらに性能が向上しています。
- 多機能性:イラスト制作だけでなく、動画鑑賞、情報収集、SNS投稿など、あらゆる用途に使えるため、コストパフォーマンスの捉え方が変わってきます。
どんな人におすすめ?
「場所を選ばずに描きたい」「趣味や仕事で、イラスト以外の用途にも活用したい」という方には最適です。ただし、PCの大画面でじっくり描くスタイルに慣れている人にとっては、画面サイズが物足りなく感じる場合もあります。
まとめ:憧れから始めよう!プロの事例に学ぶ後悔しない機材選び
今回は、第一線で活躍するプロのイラストレーターや漫画家が愛用する機材と、その選び方について深掘りしてきました。
この記事のポイント
- 信頼性のWacom:多くのプロが、長年の実績と安心感からWacom製品を愛用している。
- 多様化する選択肢:一方で、HUIONやXP-Penの台頭、iPadの普及により、制作スタイルやコスパを重視した機材選びも主流になっている。
- 「最適解」は人それぞれ:プロの選び方はあくまで一つの指針。最終的には、あなた自身の制作環境や価値観に合ったものを選ぶことが最も重要。
「たくさんの情報があって、余計に迷ってしまったかも…」と感じた方もいるかもしれません。でも、ご安心ください。ここからは、あなたが後悔しない一台を見つけるための、具体的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:まずは予算の上限を決める
最も現実的で重要なのが予算です。どれだけ高性能でも、無理な買い物をしてしまっては創作を楽しむどころではありません。まずは、自分が出せる上限額を決めましょう。
クリックして価格帯別の目安を見る
~5万円:
Wacomの高品質ペンタブ(Intuosシリーズ)や、HUION・XP-Penのエントリー向け液タブが視野に入ります。デジタルイラスト入門には十分すぎる性能です。
5万円~15万円:
各メーカーの主力となる16インチクラスの液タブや、iPad Proも選択肢に。趣味からプロを目指す人まで、最も多くの人が満足できる価格帯です。
15万円以上:
WacomのCintiq Proシリーズなど、プロ仕様の大型・高解像度モデルが中心。本気でプロを目指す、あるいは仕事で使うための投資と考える方向けです。
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ステップ2:自分の制作スタイルに合うサイズ感を知る
次に、あなたがどんな環境で、どのように描きたいかを想像してみましょう。
- Q1. 専用の広い机がある? それとも省スペースで使いたい?
→ 広い机なら大型モデルもOK。省スペースなら16インチ以下がおすすめです。 - Q2. カフェや外出先でも描きたい?
→ 持ち運びを重視するならiPad ProやタブレットPCが最適です。 - Q3. 腕を大きく振って描くタイプ? それとも手首で細かく描くタイプ?
→ 腕で描くなら大型、手首で描くなら中型~小型でもストレスは少ないでしょう。
これらの質問に答えることで、あなたに必要な「画面サイズ」や「携帯性」が見えてくるはずです。
ステップ3:可能であれば実店舗で描き心地を試してみる
最後の、そして最も重要なステップが「試し描き」です。
ペンの握り心地、画面の沈み込み、視差の感覚は、スペック表の数字だけでは決してわかりません。もしお近くにヨドビカメラやビックカメラのような大型家電量販店があれば、ぜひ一度足を運んで、実際に様々なメーカーの機種を描き比べてみてください。
「あ、このペンの感触、好きかも」「思っていたより大きいな」といった、リアルな発見が必ずあります。
憧れの作家と同じ機材を選ぶことは、モチベーションを高める素晴らしいきっかけになります。この記事で紹介したプロの事例や選び方を参考に、ぜひあなたにとって最高の「相棒」を見つけてください。
この記事が、あなたの創作活動の第一歩を力強く後押しできれば幸いです。
参考文献
- しぐれうい先生: 左手デバイスに関する言及 (ご本人のXアカウント)
- しぐれうい先生: 液タブの設置と姿勢に関する言及 (ご本人のXアカウント)
- 浅野いにお先生: “ゲームエンジンで漫画を描く”時代が到来するのか? | GAMEMAKERS
- 浅野いにお先生: 漫画家の浅野いにお氏が Unreal Engine でリアルタイム背景を制作 | Unreal Engine
- 吉田誠治先生: raytrektab 8インチモデル RT08WT インタビュー 吉田誠治 | GALLERIA
- さいとうなおき先生: さいとうなおき2 - YouTubeチャンネル (機材に関するアドバイスを多数発信)
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